日本のものづくりに機能安全認証は必要なのか?

欧州以外、FA/車載以外にも押し寄せる機能安全認証の波。最新のグローバルトレンドは?

近年、電動工具や電動アシスト自転車の製品安全規格にPL(ISO13849-1のパフォーマンスレベル)が記載されるなど機能安全対応が民生分野にも広がりを見せている。
また、機能安全規格は、北米や欧州が規制や保険等々で利用しているが、中国も機能安全を利用する動きを見せている。
機能安全は、品質・環境に次ぐ第三の波と言われ、このように産業分野から民生分野への広がり、対応地域の広がりから機能安全対応できている事が当然という時代を迎えている。

日本の産業分野ではセンサやアクチェータといったコンポーネントの第三者認証が進んでいる。これは汎用の産業用ロボットの機能安全対応が一巡し、協働ロボットや汎用性・利便性向上から次の段階に入っている事を意味している。また、専用の産業用ロボットの機能安全対応も納入先からの要望に応じる形で対応が始まっている。

民生分野では、先述の通り製品安全規格にPLが追記された製品で対応が始まっている。また、IEC 60335やIEC 60730の対象である家電や自動制御装置での対応も始まっている。ただし、この分野は規制や安全度および製品特性から第三者認証を取得しない場合も多い反面、戦略的に第三者認証を取得する場合もあり、注意の必要な分野である。

また近年、電気/電子/プログラマブル電子を使用しないと実現できない安全機能も出てきている。これらの安全機能が製品安全規格に記載されるという事は、機能安全の前に、世界的に有効と認められた標準的な、または最低限の安全機能だという意味のために、対応していくしか道は無いと思われる。
何れにしても、電子制御機器の増加により、ますます機能安全による安全機能の実現の必要性が高まり、機能安全対応が出来ていて当然の時代が見えて来た。初めて機能安全対応する場合、1年以上の期間が掛かるため早めのアクションを推奨する。

機能安全認証取得によるメリットとは?

機能安全対応のメリット(1)

  • 安全機能のコストダウンやメンテナンス工数削減
  • 細やかな安全機能の実現により、安全を維持しつつ新たな提案が可能

機能安全規格が対象としている電気/電子/プログラマブル電子を使用した安全機能は、安全機能のコストダウンやメンテナンス工数削減に有効である。

例えば、産業用ロボットの動作領域監視を仮想空間に対して行う事でロボット周囲の安全柵が不要になり、通信による安全機能の実現(Safety Fieldbus)により配線数の削減や生産現場のレイアウト自由度の向上になる。

機能安全対応によりこれらの提案が可能である反面、対応していない場合には販売機会の損失というリスクにもなる。

特に欧米の工場等の生産現場では、規制や保険料の関係から認証された安全機能を用いた安全確保が行われている。従って、事実上認証されていない安全機能が使用される事が無い。

民生分野では、機能安全対応が粗悪品排除に利用されている。また、メーカーによっては戦略的に機能安全認証を取得して他社との差別化を図り、場合によっては事実上機能安全対応している事が標準となる事もある。何れにしても機能安全対応には、ある程度の時間が必要なため、早期判断と対応がメリットとなる。

また現在、製品の複雑化やバッテリ等の技術進歩によるリスク要因の変化等もあり、製品安全規格の改定も進んでいる。製品安全規格に記載された安全機能は、国際的に有効性を認められた安全機能であり、最低限対応されるべき安全機能だと言える。製品安全規格に記載の安全機能に対応せず、もし事故が発生した場合は、損害賠償や企業としての責任を問われる事にもなりかねない。

これらの状況は、今後もさらに広がっていくと予想されるため、リスクヘッジではなく、機能安全対応のメリットを活かした対応を行っていく必要があると言える。

これからの日本の製造業がグローバル競争に勝つためには?

日本製品の品質における優位性は以前より下がったとは言え、まだ高い水準にあるのは間違いがない。これに対して安全性は、以前は高い品質から比較的高い安全性と言えたのだが、現在は製品の複雑化によって、発生原因が多岐にわたり、一概に言えなくなってしまっている。言い換えると、製品の複雑化により安全に対するアクションは再発防止対策から未然防止対策へと移ってきており、それに対応できていないと言える。ただし未然防止対策を実施していない訳では無く、対策は実施しているのだが、安全規格の要求を満たしているか、安全機能の構成要素の設計品質が担保されているか等のポイントが第三者的に評価できる状態になっていないのである。このような状況で機能安全に対応する場合、基本的に既存の安全機能には手を加えず、新規に機能安全対応のための安全機能の開発を行うと考える事がほとんどで、この事が、必要以上の安全機能にコストをかけて開発(機能安全対応)する必要があるのか、または規格に書いてあるから仕方なくやる、という捉え方になりがちなのである。

このような対応の進め方だと、明らかに製造原価が上がり、その上第三者認証取得する場合は、認証費用も必要になってしまう。また、新規の機能安全対応の安全機能だけでその製品の安全度を満たしているため、既存の安全機能を考慮すれば必要以上の安全度になるのも明らかである。

従って、機能安全対応する際には、既存の安全機能も含めて検討し、分析の結果、必要とならなければ削除するという明確な方針の基で対応する事が重要である。

機能安全対応のメリット(2)

コンセプトフェーズでのシステム設計経験は、技術者およびその組織の大きな財産となる
機能安全対応には、対応する技術者とその組織にとって大きなメリットがある。それは、システム設計の経験ができる事である。

機能安全対応では、実開発前の安全コンセプトが重視され、ここで安全機能要求、安全度、アーキテクチャおよび安全技術等から安全機能のシステム設計を行い、安全性を担保する。現在、システム設計経験の無い技術者や組織も多く、ここでの安全機能のシステム設計は、大きな財産となる。更にシステム設計からハードウェアとソフトウェアを割当て、それぞれの要求や設計根拠を明確化する事で設計品質や生産性の向上も体験できる。

日本の製造業は、機能安全対応により製品の品質に加えて安全性と設計品質を兼ね備える事で、グローバル市場での競争において優位に戦えると考える。

執筆者紹介 アーキテクト合同会社 代表 高山 哲哉

パナソニック株式会社にて産業用ロボコントローラ(機能安全認証取得)など組込み開発の上流~下流、開発及びマネジメントまで幅広く担当。特に国内の機能安全対応が黎明期の頃から、規格適合開発や第三者認証機関との交渉を経験しているため、現在の資産プロセスを生かした現場視点でのアドバイス/交渉が可能な点が強み。機能安全に関するご相談は、下記までお気軽にお問い合わせ下さい。
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